ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』をお読みになったことはありますか。
強制収容所での過酷な生活を生き延びた、ユダヤ人精神科医のフランクル。
彼が収容所で体験した出来事を冷静な視点で記録するとともに、人間の “生きる意味” をつづった、世界的ロングセラーです。
数々の名言にあふれた一冊ですが、初めてこの本を読んだとき、最も印象に残ったのは次の一文でした。
「人は強制収容所に人間をぶちこんですべてを奪うことができるが、たったひとつ、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない」
どんな状況にあっても、どのような態度をとるかを決めるのは自分だ、というのです。
当時のわたしは、会社や上司に対して不満だらけでした。
つまらなくて面倒な作業を押し付けられる
上司の仕切りが悪くて、なにかと混乱が多い
やりがいを悪用されている、不当に扱われている
などなど、頭の中は愚痴でいっぱい。
でも、仕方がないと諦めて、ただ漫然と業務をこなす退屈な日々を送っていました。
そんなときに突きつけられたフランクルの言葉に、ザワつきだした頭の中。
“会社に従うことを強いられている” のではなく、従うことを自分が選んでいる?
“上司のせいで、やる気がでない” のではなく、やる気を出さないことを自分が選んでいる??
そんなはずない。わたしと同じような不満を持っている人が、職場には大勢いるし!
あくまでも自分は被害者、好んで今の状態にあるのではない、と思いたかったのですが・・・。
それほど不満を抱えているのに、なぜ何もしようとしないの?
という問いが浮かんだとき、、、認めざるをえなくなりました。
自分にはどうしようもないと決めつけて、ただただ愚痴を繰り返してきた。
不満だらけの現状は、自分のふるまいの結果なのだと。
これから、どうしよう。
不満を解消するためにできることを考えるか、それとも新しい職場を探すか。
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あれこれ考えた末、転職することにしました。
当時は雇用情勢が厳しいと言われていた時期。
われながら、ずいぶん思い切りました。
何ヶ月も、ズルズルと現状に甘んじていたのに。
- 被害者意識から抜け出したことで
- 「自分にもできることがある」という視点に切り替わり
決断と行動につながったのだと思います。
これは、わたしに限ったことではありません。
たとえば、職場での人間関係が原因で、退職した方。
エージェントから新しい職場を紹介されても「過去のトラウマのせいで、自信がない。」と、就職活動を始めることができずにいました。
が、「また同じような目に遭うのではと、自分で不安をあおっているかもしれない。」
という気づきをきっかけに職探しを始め、仕事を再開することができました。
また、感情が不安定な家族のせいで、気が安まらないとおっしゃっていた方は、
「自分が家族に気を使いすぎているから、気苦労が絶えないのではないか」
と思い、自分のための時間を増やすことに。
するとご自身の気持ちがおおらかになり、以前に比べてご家族の状態も安定してきたそうです。
ご家族への心配や不安で消耗することがなくなり、エネルギーを仕事やプライベートにもそそげるようになったのでしょうか、今ではさまざまな挑戦をつづけておられます。
こういった例を、たくさん見てきました。
少し視点を変えることで被害者意識から離れ、状況を変えていくことができたのです。
All blame is a waste of time.
Wayne Dyer
No matter how much fault you find with another, and regardless of how much you blame him, it will not change you.
どんなことであれ、人のせいにするのは時間の無駄です。
ウェエイン・ダイアー(アメリカの心理学者)
あなたがどれだけ人の過ちを見つけようとも、その人をどんなに責めようとも、自分を変えることはないのだから。
人のせいにして自分を憐んでいても、何も変わりません。
状況を変えたいなら、まず「自分はどうありたいか、どうしたいか」を考えることが不可欠です。
いやいや、やっぱり○○のせいだ。
そんな思いにとらわれるときも、あるかもしれません。(わたしにも、そんなときがあります。)
たとえ○○のせい、としか思えないときでも、あえて考えてみてほしいのです。
「自分のつらさに対して、ほんの数%でも責任を負うとしたら、つらい気持ちを和らげるために何ができるだろう」と。
パートナーがちっとも家事をやろうとしない。腹が立って仕方がないけれど、もう言うのも疲れた・・・。
そんなとき、数%(5%、1%でも)自分にも原因があるという前提で考えてみると、
「わたしの言い方が気に障って、やる気を失わせているのかもしれない。言い方を変えてみようかな。」
「もっと家事をやってほしい、と言われても、何をしたらいいのか分からないのかもしれない。具体的にやってほしいことを伝えてみよう。」
「以前、相手のやり方について愚痴を言ったのがよくなかったのかな。やり方も含めて、お願いしたほうがいいかもしれない。」
など、自分にできることが見つかるかもしれません。
少しでも視点が変わると、状況を変えるチャンスが生まれます。
ぜひ、お試しください。